「たった一度きりの測定」で異常に高い運動量が観測されて保存則が破れているように見えても、その「たった一度きりの測定」は無数の世界線をうみだし、その中に異常に低い運動量が観測された世界線もあるため、最終的な保存則は守られるわけです。

あえておみくじで例えるならば、大凶を引き当ててしまった不運を帳消しにするため、別の世界線では大吉を引き当てている自分がいる状態とも言えます。

(※言うまでもなく「運」や「確率」はエネルギーや運動量と違いもともと保存則に当てはまりません。あくまで異常に高い結果は異常に低い結果で補われるという点を強調したたとえです)

多世界解釈を信じる研究者たちも、多世界解釈においては「いくつもの測定結果が生じる世界を合わせて考えれば、運動量などが保存される」と説明するのが典型的でした。

このような量子力学の保存則問題に対する筋が通った解釈は、ある意味で多世界解釈の優位性を示すだけでなく、多世界解釈を支える大黒柱として機能してきました。

しかし新たな研究により、この大黒柱が揺らぐことになり、多世界解釈は危機を迎えました。

多世界解釈の危機

多世界解釈の危機
多世界解釈の危機 / Credit:Canva

これまで扱ってきたように、量子力学には「測定による波動関数の収縮」という不思議なプロセスがあり、これをどう解釈するかが大きな論点となってきました。

また、同時に「観測時に保存則が破れてしまうかもしれない」というパラドックスがあり、多世界解釈(MWI)は「宇宙が測定のたびに分岐しているから、全体としては保存則が保たれる」という視点でこの問題に答えようとしてきました。

ところが近年、イギリス・ブリストル大学のサンドゥ・ポペスク(Sandu Popescu)ダニエル・コリンズ(Daniel Collins)が主導する研究によって、「単一世界」であっても、保存則は破れていない可能性があると示唆されました。

重ね合わせを発生させる装置を考慮に入れる