Collins & Popescuは2020年代初頭ごろから続く一連の研究の中で、「測定による保存則の破れ」と見なされてきた現象を、より広い視点で捉えなおすという試みを続けていました。
通常、実験では電子や光子を特定の量子的状態に準備する段階が必要です。
たとえば特定のスピン状態や特定の運動量状態などを作り出すレーザーや電磁場があり、こうした重ね合わせを作る装置(状態準備装置)を「プリペアラー」と呼ぶことがあります。
(※プリペアラーには重ね合わせ以外にもさまざまな量子的状態を作るものが含まれます)
多くの人は、測定器(例:検出器)と被測定系(例:電子)の相互作用ばかりに注目しがちですが、実際にはプリペアラー(状態準備装置)もまた量子系であり、被測定系とエンタングルメント(量子もつれ)を形成している可能性があります。
Collins & Popescuは、このプリペアラーが見過ごされてきた点こそが、保存則の破れを招いているように見える根本原因ではないかと指摘しました。
たとえば「重ね合わせ状態を作り出す装置」は、その粒子と何らかの相互作用をしているため、量子力学的には“系+プリペアラー”の間でエンタングルメントが生じていると考えられます。
つまり、単純に「粒子だけが重ね合わせ状態になっている」のではなく、「粒子とプリペアラーが一体となって重ね合わせ状態を共有している」のです。
ここが重要なポイントです。
プリペアラーの側にも運動量や角運動量、あるいはエネルギーなどがやり取りされている可能性がある場合、測定によって粒子の運動量が特定の値になったとしても、その変化は「分岐した別の世界線ではなくプリペアラーが補償している」のではないか、というわけです。
この仮説を証明するためCollins & Popescuは理論モデルを組み立て、保存則を破っているように見える場合、それを補うのが別世界なのか、実験装置内の重ね合わせを作る装置なのかを調べました。