結果、破れたようにみえる保存則の埋め合わせが別世界ではなく、重ね合わせを作り出す装置によって行われていることが判明しました。
観測者や測定器が出番になるより先に「粒子を重ね合わせ状態にしておく装置(プリペアラー)」があって、そこからまだ少し残っているエンタングルメントが測定結果の“ズレ”を帳消しにしてしまうのです。
つまり「測定そのものより前の段階で粒子と装置が結びついているため、その結びつきが最終的な値を調整し、あたかも保存則が破れていないかのように埋め合わせさせるのだ」と彼らは主張しているわけです。
さらに衝撃的なのは、彼らが「これは単なる確率的なアベレージ(平均)として成り立つのではなく、“一回限りの測定イベント”においても成り立つ」と述べていることです。
従来、エネルギーや運動量の保存則は「多数回の測定を繰り返した統計的な結果として成立する」と考えるのが常識でしたが、Collins & Popescu は「各測定ごとに厳密に保存則が成立している可能性」を数理的に示しました。
この結果は、多世界解釈の整合性に大きな影響を与えます。
なぜなら、並行世界を仮定せずとも、単一の測定結果のなかで保存則を満たせる可能性が示唆されるからです。
もし本当に「単一の測定においてすら、保存則が破れていない」ならば、多世界解釈を支える大黒柱──「保存則を守るための枝分かれ仮説」──が崩壊することになります。
極論するならば「この世界だけで説明できるとすれば多世界解釈は必要ない」ということになります。
もちろん、これが即「多世界解釈を完全に否定する」という結論には直結しません。多世界解釈は「測定問題の収縮」全般を回避するための思想であり、保存則の問題だけがその存在意義ではないからです。
またCollins & Popescu は「多世界を否定」しているわけではなく、あくまで「単一の測定イベントでも保存則が守られる構造がある」と指摘しています。