またこの他にも、異常犯罪によるカニバリズムの例(※)がありますが、この異常で稀なケースを除くと、人類史におけるカニバリズムは基本的に、葬儀や儀式といった文化的・宗教的な意味合いで限定的に行われるか、極限の飢えを凌ぐために仕方なく行ったケースがほとんどです。

(※ 例えば、有名な事件では1981年に起きた「パリ人肉事件」が知られている。これは当時フランスに留学していた日本人男性が友人のオランダ人女性を射殺し、屍姦後に彼女の肉を食べた衝撃的な事件である)

そのため、毎日の栄養摂取を目的として、日常的に人肉を食べる習慣は人類には定着していません。

これには倫理的な理由の他に、れっきとした科学的な理由があるのです。

人を食べるべきでない科学的な理由

そもそも生物はヒトも含めて、自分たちの種に有利になるように生存競争を進めていかなければなりません。

その上で人が人を食べることは進化上の観点からするとデメリットだらけなのです。

食人行為のデメリットは大きく分けて3つあります。

1つ目は「狩りのコストが高すぎること」です。

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Credit: canva(ナゾロジー編集部)

狩猟をする生物はいかに体力を削らず楽に獲物を得られるかをモットーにします。

もし人を好物とする食人族がいたとすると、彼らは自分たちと肉体的および知的に同レベルの相手を狩らなければなりません。

これはウサギやシカ、イノシシを狩るより遥かに労力がかかる上に、間違ったら自分がやられる確率が非常に高いのです。

まず、この狩りのコストという点で食人行為は割に合っていません。

2つ目は「人肉の栄養価が低いこと」です。

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これについては英国ブライトン大学が2017年に興味深い研究を報告しました(Nature, 2017)。

ここで研究チームは「食人族が体重55キロの男性を食料にした場合に得られるカロリー量」を試算したのです。