JAL機
報告書は以下の事実から、JAL機の運航乗務員は滑走路上の海保機を衝突直前まで認識していなかったと推定されるとしている。
・JAL機は、最終進入を中止し、復行しなかったこと
・高度500ft以下において、操縦席内で運航乗務員の発話がなかったこと
なお、JAL機のCVR(コクピット・ボイスレコーダー)の記録の中では、17時47分27秒の衝突後、機体が停止した直後の17時48分16秒に訓練乗員が「小型機いましたね」と言った、とされているが、これはまさに衝突直前に海保機を認知したものと考えられる。
報告書は、JAL機が滑走路上の海保機を衝突直前まで認識していなかったことについて、いくつかの事項をあげて、今後事故発生との因果関係に関する分析が必要であるとしている。これら事項のなかで、認識を難しくした要因としては下記があげられている。
・事故発生時は日没後で暗く、月も出ていない状況であった。
・後方から見ることができる海保機の外部灯火は、胴体尾部に取り付けられている衝突防止灯(白ストロボ)及び下部尾灯位置灯(白)並びに垂直尾翼上部に取り付けられている上部尾灯位置灯(白)で、これらは海保機が停止していた滑走路面の滑走路中心線灯の列とほぼ同じ線になっていたこと
・JAL機が着陸を許可されていたこと
一方で、報告書は下記についても因果関係に関する分析が必要であるとしている。
・社内の副操縦士資格を得るための訓練生が右席で操縦し、左席の機長がその指導を行っていたこと
・タワー東から通報された風と機上の風向に相違があったので、運航乗務員が最終進入中の風向の変化を予想し、これに伴う速度の急な変化を懸念していたこと
・機長と訓練乗員が、最終進入中を含め、飛行中HUD(ヘッドアップ・ディスプレイ)を使用していたこと
HUDについては、遠くの視認性を妨げる可能性と、逆に下の計器を見ないことにより視認性が向上するという両方の説が指摘されており、今後の分析結果が注目される。
JAL機は前輪が接地する前に海保機と衝突したため操縦席と前方客室の破壊を免れた可能性がある。報告書は、JAL機のフライト・レコーダーの記録から、衝突時、JAL機の姿勢は3.5°上向きで前輪が接地していなかったことを明らかにし、両機が衝突したときの位置関係を下図のように示している。
JAL機は海保機の尾部に衝突し、操縦室床下の電気室の前方部分に大きな損傷を受けた。続けてJAL機の両エンジンは海保機の主翼に衝突し、大きな損傷を受け、海保機の上を通過する際に胴体下面にも損傷を受けた。もし、JAL機が前輪を接地した状態で海保機の尾部に衝突していた場合には、操縦席と前方客室の破壊が起こり、人命の被害が拡大していた可能性がある。
報告書は、電源が喪失しコクピットからの指令、機内放送(PA)が使用不可となるなか、客室乗務員、機長など運航乗務員が旅客の非常脱出に適切に対応した結果、重大な人的被害が発生しなかったことについて、有用な教訓を引き出すことができるとし、今後さらに分析を進めるとしている。また、脱出が始まったことに気づかず、最初に客室乗務員に言われたままに姿勢を低くして座席に止まり、最終的に機長による最後の見回りで発見され、後部ドアのスライドから脱出することができた旅客が複数名いた。このような取り残された旅客が、1、2名だったのか、もっと多かったのか、最終報告では具体的に明らかにしてほしいものだ。