管制官
海保機が誤侵入したとしても、タワー管制官がこれに気が付き、海保機にただちに退去指示を出すか、JAL機に着陸のやり直し(着陸復行)を指示していれば、衝突は回避できたはずである。実は羽田空港の場合、4本の滑走路で、もし複数の航空機が同じ滑走路を使用しようとして滑走路の占有重複状態を検出した場合には、視覚的に注意喚起を行う「滑走路占有監視支援機能」が装備されていた。具体的には、空港面監視画面の滑走路表示が黄色くなるとともに、関係機のデータ表示の色も変わり、航空管制官に視覚的に注意喚起を行う。全管制席卓画面並びに頭上の大型モニター(計14カ所)に表示されるようになっている。ただし、音声アラームはない。
今回、実際に衝突67秒前の17時46分20秒にC滑走路について同支援機能の注意喚起が発動し、衝突1秒後の17時47分28秒まで継続して発動された。いうまでもなく、注意喚起発動の対象は、海保機とJAL機による滑走路の占有重複であった。しかし担当のタワー管制官は発動された注意喚起表示を認知していなかった。これは、当時タワー管制官は自身の管制下にあった5機のほか、D滑走路から離陸する2機の航空機もあわせて目視による監視対象とし、作業が輻輳していたことが主な理由である。加えて、東京飛行場管制所では、この支援機能の注意喚起が発動された場合の処理要領の規定がなく、訓練もなく、また支援機能の機能を理解する資料等もなかったこと、さらに誤発動も多く、信頼に足る機能と見なされず、いわば「狼少年」的に扱われていたことも理由であろう。担当のタワー管制官だけでなく、グラウンド管制官も飛行場調整席を担当していた航空管制官も注意喚起表示を認知していなかった。
ところが、管制タワーとは別の管制所にいた東京ターミナル管制所の管制官は注意喚起表示を認知していた。東京ターミナル管制所とは、羽田空港および成田国際空港において離陸後、着陸前の航空機についてターミナル・レーダー管制業務及び進入管制業務を行う管制機関である。この東京ターミナル管制所の出域調整席を担当していた航空管制官は、「滑走路占有監視支援機能」の黄色の注意喚起表示を認知していた。そして、海保機と着陸するJAL機がC滑走路を重複占有しているため、JAL機が着陸せずに着陸復行するのではないかと考え、タワー管制官に衝突の15秒前にスピーカーによるホットラインで、担当タワー管制官に問い合わせを行った。しかしながら、注意喚起表示を認知していなかったタワー管制官には意味が通じなかった。
報告書によれば、運輸安全委員会は管制塔の3名の管制官にヒヤリング調査を行っているが、注意喚起表示を認知していたこの東京ターミナル管制所の管制官に対してはヒヤリングを行っていない。同管制官は早い段階で注意喚起表示を認知していた可能性があり、ヒヤリング調査により踏み込んだ調査を行うことが望ましい。もし、この東京ターミナル管制所の管制官が67秒間の注意喚起表示の初期に気がつき、かつタワー管制官と上手く連携を取れていれば、JAL機に着陸復行を促し、事故を回避できていた可能性もあるからである。
運輸安全委員会は国家行政組織法第3条により規定される国土交通省の外局であるが、国土交通大臣の管理する外局である海上保安庁、および国土交通省の組織である管制部に対しても、遠慮することなく踏み込んだ調査・分析を行うことが望まれる。