では、デマ投稿を罰則の適用の方向で抑止することはできないか。

【(1)】で述べたように、当選目的の虚偽事項公表罪の対象の「虚偽」が限定されているため、SNSにデマを投稿する行為自体を公選法の虚偽事項公表罪によって処罰することは容易ではない。

兵庫県知事選挙での斎藤健一郎参議院議員の街頭演説のように、「斎藤元彦候補の当選を得させる目的」を明示した上で、稲村候補が県庁舎建設に1000億円をかけようとしていると「政策に関する虚偽」を述べても、「虚偽事項公表罪」が成立すると解することは困難である。

斎藤参議院議員のような発言を禁止しようと思えば、「当選目的による虚偽事項公表罪」の「虚偽事項」に「政策」を含めることも考えられるが、この場合の「政策」というのが、いつどの時点で候補者が掲げた政策とするのかを明確にする必要がある。

少なくとも、候補者が選挙公約に記載している「政策」についての虚偽事項公表は、当選目的であっても処罰の対象とすべきであろう。

デマ投稿の「拡散」への対策

結局のところ、デマ投稿そのものを速やかに削除することが容易ではなく、立法上の措置にも限界がある。そこで、検討する必要があるのが、デマ投稿の「拡散」を防止ないし抑制する方向での対策である。

SNSのデマ投稿の問題は、それが大量に拡散され、多くの有権者の目に触れることにある。その大量拡散の原動力になっていると言われるのが、SNSを運営するプラットフォーム事業者の動画投稿等による収益の支払いだ。YouTube動画やその切り取り動画が拡散されて多く視聴されればされる程、広告料収入が増えるので、収益獲得を目的として、内容の真偽を問わず有権者の目を引く刺激的な投稿が拡散されやすい。

そもそも、公職選挙は民主主義の基盤であり、選挙権・被選挙権を有する国民が無償で権利を行使する場である。選挙に関わることで利益を得ようとすること自体が、公選法の目的に反するものである。選挙に関する発言・演説の動画を配信して利益を得ようとする行為の規制を躊躇する必要はないと考えられる。

「業務としてSNS選挙に関わること」への対策