もっとも、現行法上の特例として、選挙運動の期間中に頒布された「特定文書図画」が上記表示義務に違反している場合に、自己の名誉を侵害された候補者等の申出を受けてプロバイダ等が当該情報を削除しても民事上の賠償責任は負わないとされていることや、ネット掲示板やSNSにより自己の名誉を侵害された候補者・政党等からプロバイダ等に情報削除の申出があった場合、情報発信者に削除同意照会をし、2日リアクションがなければ削除が可能となるなど、選挙における表示義務を果たさない掲示板の書き込みや、表示義務は果たしているが候補者の名誉を棄損するSNSの投稿は、通常よりは削除が容易にできるようになっている(「プロバイダ責任制限法」第4条)。

しかし、この特例により削除の申し出ができるのは候補者・政党等に限られ、期間も選挙運動の期間中に限られる。

選挙の最中の大事な時期に表示義務違反がないかを漏れなくチェックしたり、名誉棄損の投稿者に連絡して2日間待つ、といったことはなかなかできることではなく、しかも、削除の申し出先は、現在は、立法当時想定していた国内の大手プロバイダが中心ではなく、SNSの運営会社や、ネット掲示板運営会社であり、これらは海外事業者も多く、通信の秘密などを盾にすぐには応じない事業者も多いものと思われる。

諸外国でも、選挙におけるSNSの規制は問題になっており、欧州各国では、インターネットにおける虚偽情報・情報操作への対策として、虚偽情報やヘイトスピーチなどの削除、ネット配信停止や放送停止が可能な仕組みを導入する動きもあるようだが、そこには表現の自由との兼ね合いがあり、東南アジアなどでは、「虚偽」の恣意的な解釈などにより野党排除に悪用されている事例も少なくない。

一方で、イギリス・アメリカは表現の自由を尊重し、基本的に対策はとられていないようである。

SNS上での虚偽情報・デマ投稿への対策

上記のとおり、SNS上での虚偽情報・デマの拡散に対して、現行法によるメールアドレス表示義務と投稿削除要請では有効な対策を行うことが困難だと考えられる。