一方で、2014年にインターネット選挙が解禁されてから10年が経過し、選挙運動におけるSNS運用などのネット選挙戦略のウェイトが高まっている現状において、現行の公職選挙法のルールが、多くの面において実態に適合しなくなっていることも事実であり、今後、抜本的な見直しが必要になっていることは否定できない。

SNS選挙の実態に即した公選法改正の論点

そこで、今回の兵庫県知事選挙に関連して公選法改正の論点になると考えられるのが、「SNS上のデマ投稿の拡散」と「業務として行われるSNS運用に対する報酬の支払い」である。

まず、2014年のネット選挙解禁の公選法改正において、SNSがどのように位置づけられていたのかを確認しておきたい。

同改正では、ウェブサイト等における誹謗中傷等について一義的にはプロバイダ責任制限法に基づくプロバイダの対応に委ね、他方で密室性が高いので誹謗中傷やなりすましに悪用されやすい電子メールについては、第三者による送信を禁止し、誹謗中傷等の発生を防止することにした。

改正の議論の時点ではまだ現在程影響力が大きくはなかったSNSは、「ウェブサイト等」に含むものとし、規制の強い電子メールには含まれない、という整理でスタートした。しかし、電子メール同様に多数人に情報の送信も可能で、誹謗中傷やなりすましのリスクが高いSNSは、改正後すぐにコミュニケーションツールの主役となり、電子メールだけ規制を強くした意味はなくなり、現状のようなSNSによるデマ拡散等の弊害が生じている。

このようなSNS上のデマ投稿に対して、現行法では、公選法142条の5で、Webサイト及びメールによる「当選を得させないための活動」、つまり「落選運動」について、責任ある情報発信を促す趣旨でメールアドレス等の表示が義務づけられ、一部の違反には罰則も定められている。

ところが、「当選を得させる目的によるSNSを使用した選挙運動」には同義務について罰則がまったくないし、SNSは投稿時点で自動的に投稿者が表示され、返信も可能性となるので、投稿者は何もせずに表示義務を果たすことになると解されており、表示義務の規定は形骸化している。