今回の兵庫県知事選挙での斎藤氏と折田氏の関係については、斎藤氏がmerchuを訪問した9月29日以降、同社の社長の折田氏が個人のボランティアとして選挙に関わっていたことは斎藤氏側も認めており、
「選挙運動者や労務者というのは一種の人的属性であるから、選挙運動者が選挙運動と併せて選挙カーの運転等の労務者のなし得る行為をした場合に労務者となり、報酬の支給ができるものと解することはできない。」
とする判例の趣旨からも、同社にポスター、チラシのデザインの対価として支払われた71万5000円について買収罪が成立は否定できないように思われる。
しかも、一般的には、業者が行うポスター、チラシ等のデザインは、機械的労務であり、特定候補者の当選のための主体的裁量的行為ではないが、【(1)】で詳述したように、折田氏及びmerchuは、メイン・ビジュアルを起点とし、有権者向け訴求力を高めるための「公約スライド」作成とも相俟って、斎藤氏の選挙に向けてのデザイン戦略を担っていたのであるから、そのようなデザイン自体が、主体性・裁量性をもって行われた選挙運動と解される可能性が高い。
これまでも、選挙コンサルタントなどによる「業務としての選挙への関与」が、公選法上の問題になることはあったが、関与の実態が表面化することは少なかった。
今回の選挙については、折田氏がnote投稿で選挙運動に主体的裁量的に関わっていることを自ら公言し、斎藤氏側が折田氏側への報酬支払の事実を明らかにした。そして、その後公開された斎藤氏の選挙運動費用収支報告書の内容により、「業務としての選挙への関与」と報酬の支払の実態が相当程度明らかになった。
このところ急激に高まっている「SNSの選挙に対する影響力」からすれば、公職選挙でSNS選挙戦略が有償の業務として行われることを放置すれば、今後の公職選挙において、ネット選挙戦略の付加価値が高まり、そのノウハウ・スキルを持つ業者に対する報酬が高額化し、「ネット金権選挙による腐敗」を招く危険性も否定できない。