そこで世界の「少子化する高齢社会」の現状から、エバースタットは「魔法の処方箋」(magic formula)を求めた議論を展開する。それは俗にいう「魔法」(magic)とは区別された極めて社会科学的な手法によるものである。
そしてその前提には、高齢化や人口減少にもかかわらず向上してきた生活水準の高さと各種のイノベーションへの着目がある。
分野的には、公衆衛生、健康、教育、科学技術、社会と、経済などによる組合せによって、「20世紀の間に広まった繁栄と同じ処方箋で、人口減少に特徴づけられる21世紀の世界でもさらなる前進を確かなものにできる」(同上:17)という認識がそこには鮮明に認められる。
人材の潜在的資源(potential)を増大させる現代の経済発展のエッセンスは人材資源の増大に加えて、都合のいいビジネス環境の持続的な拡大にあり、これは人類の持つ価値を引き出すことを手助けする政策と制度で構成されている(同上:17)。
これらの主張は時代に逆行するような印象を受ける。しかし20世紀と21世紀では、確かに人口増大と人口減少の違いが鮮明であるが、20世紀の経済成長や経済発展のやり方を学ぶことは意味があるであろう。
日本で15年間続いた高度成長期でも、経済成長率と合計特殊出生率の高さが並行していた事実がある。ただし21世紀の今日では経済成長を取り巻く条件がかなり異なるから、その配慮が必要になるのはいうまでもない。
何よりも「人口減少」への適応を優先するこのような「処方箋」を描くエバースタットは何よりも「人口減少社会への適応」を優先して、「国、企業、個人は責任と資金(responsibility and savings)を重視しなければならない」(同上:18)とした。
ただ社会学の観点からは、企業以外の諸集団・組織(アソシエーション)と個人だけではなく、縮小過程にある家族の働きもまた追加したくなる。
「労働市場の柔軟性」を高める