要は、未婚者としての一人暮らしの人が持つ「自由性」と「利便性」が、子育て者に伴う「不自由性」と「不便性」とに対置されていて、後者を感じる女性(男性も)が世界的に増えてきた。その結果世界中の人々の多くが「自由性」と「利便性」を求めて最終的な「結婚からの逃走」という選択をしてきたことが、「世界的な人口減少」の原因と見なされたのである(同上:13)。
エバースタットは、このような「結婚からの逃走」現象の広がりを「模倣理論」(mimetic theory)で説明する注3)。なぜなら、模倣(imitation)が意思決定を促し、人間がもつ調整活動(human arrangements)における意志(volition)と社会的学習(social learning)を強調するからである(同上:13)。
模倣の対象が「結婚からの逃走」者ばかり多くの人たちが子どもをできるだけ少数しか持たないために、身近には大家族が乏しくなった。すなわち世界的に見ても、模倣して学習する対象(大家族)が喪失したので、見えるのは少ない子どもをもつ男女ばかりになり、結果的に「結婚からの逃走」者の模倣が多くなってしまった。
すなわち「人口減少」の背景には、長期にわたる模倣による「出生率の低下」があり、たとえ80億人が健康で暮らし向きがよい世界(healthy and prosperous world)であっても、すべての家系があと一世代で消滅してしまうとエバースタットは究極の予言まで行っている(同上:13)。
高齢者ばかりの国から社会システムの消滅が見えるその断片はすでに日本でも全国の過疎地域で現実化しているが、細かくいえば出生率が低下して生まれる子どもが減り続ける一方で、高齢者増大がしばらくは続くようになる。
一世代が交代する30年間それが続いた後には、その「消滅」のタイミングは早ければ2053年とみて、遅くても2070年代から2080年代になるとエバースタットは予想する(同上:13)。