一つは、人口減少社会が新しい不慣れな環境にどのように迅速にそしてうまく適応していくか。もう一つは、長期化する人口減少が国民の意識(national will)や士気(morale)にどのような影響を与えるかである。

レジリエンスと社会的凝集性

そこでエバースタットは、「レジリエンスと社会的凝集性」(resilience and social cohesion)をもちだして、世界の先行きをまとめようとする。ただし、この両者は国によってかなり異なるために、いくつかの補助線として政府機関、企業部門、社会組織、個人的規範と行動などのしっかりした見直し(substantial reform)を提起する(同上:21)。

これらはいずれも重要なものであるが、社会学の観点からすれば、「個人的規範と行動」(personal norms and behavior)の見直しに触れざるをえない。なぜなら、「レジリエンス」でも「社会的凝集性」も最終的には国民の規範と行動に規定されるからである。

世界の「永続的硬直化」の危険性

エバースタットもこのような事情は理解しているようで、人口減少社会のなかで「悲観主義、不安感、見直しへの抵抗」(pessimism, anxiety, resistance to reform)による世界の「永続的硬直化」(perpetual sclerosis)ないしは「衰退」(decline)を危惧している。なぜなら、これらがそれぞれの国の「安全保障」へも影響するからである。

その理由は、「国の防衛は犠牲なしにはできない」(同上:21)からである。

「自立性、自己実現、個人的自由の探求」と「国防のための犠牲」の衝突

しかし冒頭にのべられた「自立性、自己実現、個人的自由の探求」(autonomy, self-actualization, and the quest for personal freedom)という「国民の規範と行動」は根強いものであるから、「国防のための犠牲」は極めて困難である。