しかし、自分の頭でものを考えられる人々は、昨今の習近平政権の言論封殺、経済不振に加えて、上述したゼロコロナ撤廃のドタバタを見て、対策を講じ始めた。「潤(run)」と呼ばれる逃避的海外移住が増えているのは、その表れだ。

今後の中国はどこに向かうのか?前号では「民主化から離れて実現した習近平氏の個人独裁は、何時までも続けられる訳ではない」と述べたが、振り子の振れ戻しが直ちにやって来るとも思えない。

私は中国の振り子の振れ向きを決める因子として、財政の懐具合と上述した西側をどう見るか?の心理学の二つがあるという仮説を立てている。

懐が寒くなると、改革志向・西側親和的に振れようとする力が働く、逆に懐が暖かくなると、DNAに刻まれたマルクス・レーニン主義が起き上がる。「心理学」の方は、上述した以上の説明は要らないだろう。

2010年代は二つの因子が共に保守化、反西側的な方に振れる力が働いたので、「中国が民主化に背を向けた」と感じさせたのは当然の成り行きだ。

では、今後はどうなるか?「財政の懐具合」因子は、明らかに改革志向・西側親和的に振れようとする力を働かせるだろう。しかし、「心理学」の因子が西側親和的な方向に振れるのは期待薄だ。

西側親和的な、例えば再び中国に民主化を求める動きが出てくるためには、中国の閉塞感がいちだんと増すとともに、西側先進国が手本としての輝きを取り戻す必要がある。前者はともかく、後者の見通しも暗いのが哀しい。

6日は御用始めだから、連載は今日で打止めにしようと思う。この連載で皆さんに分かってもらいたかったことは二つだ。

一つは、中国がこの30年でどれほど大きく変化したかということ。もう一つは、その変化には、善し悪しは横に措いても「そう来りゃ、こうなる」的な背景や事情があったのだということだ。

「中国が民主化から離れていったのは、1949年の建国当時から密かに計画していた動きなのだ(「百年マラソン」説)」みたいな与太話を信じちゃいけません。昔、そう唱える中国人(軍人?)が居たかも知れないけど、私が暮らした1990年代の自虐的な中国でそんなことを唱えれば「医者に診てもらえ」と言われるのがオチだっただろう。