この過程で西側が放っていたオーラが消えて、それまで西側を「仰ぎ見て」いた中国人のある種の心理的呪縛が解けた。

この時もたらされた心理的インパクトを物語る状況証拠が幾つかある。

「米ドル頼みは危ない」「米ドル覇権は問題だ」という見方が台頭して「人民元の国際化」を目指すようになった(2009年から) 以前は「保守派のアブナイ言説」扱いされてきた「核心利益」論が公式の言説になった(注) 途上国のインフラ事業を対象とする「官」絡みの対外投融資が急増した(2011年頃~。 後に「一帯一路」と呼ばれるように)

注:核心利益:国家指導者による対外表明の初出は、2010年9月23日国連総会における次の温家宝総理一般演説

「中国は揺るぎなく国家の核心利益を守る。主権、国家統一および領土保全の問題では、中国は譲歩も妥協も決してしない」

尖閣諸島で起きた漁船衝突事件(9月7日)の半月後のタイミングだった。この後中国は「一寸の土地も譲らない」強硬態度から降りられなくなった。

次の出来事は2016年に起きた。6月に英国政府が「否決」を見越して国民投票に付した「EU離脱」が可決されてしまった(ブレグジット)。そして11月の米国大統領選挙では、本人も驚愕したトランプ当選が決まった。

世界中がこの二つの出来事を知って「まさか!?」と驚愕し、「どちらも自国の利益を害するオウンゴールみたいな選択だ」と見なした。

中国も「国際化や自由貿易は、これまで西側が世界に押し広めてきた考え方なのに、なぜ自ら否定するような決定をするのか?」と驚愕したが、同時に「こんな致命的エラーを起こしてしまう西側の民主主義政治体制は欠陥品だ、中国は決して真似をしてはならない」という見方が急速に台頭した。

この時のインパクトを物語るエピーソードとしては、

大統領選挙直後にワシントンを訪れた中国の学者が、米国人に向かって「あなた方の政治体制より中国の方が優れている」と言い放った 翌2017年10月の第19回党大会において、「第三世界に中国の発展モデル(智惠とソリューション)を提供する」と公言した(ワシントン・コンセンサスが全てではない、「北京コンセンサス」もあるんだという主張の嚆矢)

ダメを押した出来事がコロナ(COVID-19)だった。中国は「グラウンド・ゼロ」の武漢では初動が遅れる痛恨のミスを犯したが、その後は果敢な封じ込めによって感染を急速に鎮静化させた(中国における「コロナ前半戦」)。