「人間は厳しい自然環境を生き抜くために知能を発達させた」とよく言われますが、実は“仲間から攻撃されないための方策”のほうが知能進化において重要だったのかもしれません。

「人間はパンツを履いたサル」という比喩は有名ですが、いま話してきた観点からこの比喩を更新するとすれば、人間は「噂をするサル」あるいは「仲間を殺しまくるサル」と言っても過言ではないでしょう。

それほどまでに人類の進化を牽引した要素が「仲間殺しからどう逃れるか」に集約されているというのは、一種の恐怖を感じる事実でもあります。

なお余談ですが聖書に出てくる「知恵の実を食べた人間は、すぐに兄弟殺し(カインがアベルを殺害)を行った」という物語も、人類が知恵を得たと同時に仲間を殺すようになる過程を暗示しているようにも見えます。

もしこのエピソードが作者の思い付きの産物ではなく、知恵が芽生えたゆえに、仲間との争いが熾烈化し、殺人が連鎖するという人類進化を暗示していたとするなら……(ありえないことですが)足元が冷える思いをします。

最後に、この仲間殺しへの適応がどれほど具体的に脳を変えたかを示す指標として、ダンバー数に触れておきます。

ダンバー数という概念は、霊長類学者のロビン・ダンバーが提唱したもので、人間が安定した社会関係を維持できる人数の上限がおよそ150~200人程度だという仮説です。

これは、脳のネオコルテックス(新皮質)の大きさが、群れのメンバーを記憶し把握すると同時に、複雑な人間関係を処理する能力と相関しているという考え方に基づいています。

簡単に言えばチンパンジーよりも人類の群れが大きいのは、新皮質がより大きいからとなります。

人類の新皮質は非常に巨大なため、かなり大きな群れをつくることができます。

しかしそれでも限界があります。

人類でも、友人同士の付き合いや、誰が信頼できて誰が危険かといった情報を共有する際、150~200人を超える規模になると、一人ひとりの状況を正確に追いかけるのは脳のキャパシティ的に難しくなってしまうことが知られています。