脳の配線を大規模にリプログラムして仲間殺しをしない聖者の集まりのような種に進化するよりも、殺されない側につく能力を進化させたほうが「安上がりかつ合理的」だったからです。

現代においても仲間外れにされる恐怖から、人間の脳は「むしろ率先して誰かを叩く」「噂で糾弾する」ことに悦びを感じるのは、狩猟採集の時代に、殺人の標的にならないために「どっち側につくか」が生死を左右していた名残とも言えるでしょう。

さらに脳科学的にも興味深い証拠があります。

いくつかの研究では、ゴシップが単なる情報交換で終わらず、脳内の報酬系(ドーパミン回路など)を刺激することが明らかになっている点です。

Feinberg, M., Willer, R., & Schultz, M. (2014)らの研究では、ゴシップ(噂話)と“仲間はずし”が協力行動を高めるメカニズムを実験的に示し、悪い噂を共有することが集団全体の秩序を維持するための進化的手段になり得ると主張しています。

またゴシップや他人の秘密を話すとき、人間の脳は快感をもたらす物質を放出しやすいという報告があります。

仲間殺しの多かった時代において、危険人物を特定する情報を交換することが、脳にとって“ご褒美になっていた可能性があるわけです。

こうした仕組みを考えれば、「なぜ人は悪口や他人の噂に引き寄せられるのか」「他人のスキャンダルを共有するとなぜ楽しく感じてしまうのか」も説明がつきます。

仲間に殺されないために必須の情報をやり取りできれば、脳がプラスの報酬を与えてくれるというわけです。

さらに最新の脳研究では、人間の脳の進化の原動力が他人との関係性を模索するために行われた可能性すら指摘しています。

私たちが“ぼんやりしているとき”に活性化するDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)が、実は他者や自己を思考するときに大きく働くことを示しています。

つまり何もしていないときであっても、人間の脳は自分と他者の関係を無意識に考え続けているのです。