こうした社会的繋がりや排除の手法は、人類の行動進化に大きく寄与しました。

戦闘能力や敏捷性のみならず、いかに賛同者を得るか、情報操作を行うかが生存に不可欠だったのです。

一方、仲間殺しが主要な死因となっている世界では、噂話や悪口の対処を上手くできない個体の遺伝子は排除されていきました。

結果として人類の脳は「仲間に殺されないためには常に噂話や悪口に注意を払う」ように進化することになります。

Lieberman, M. D. (2013)はその著書において、人間の脳が他者との関係や社会的つながりを非常に重視するように作られている事実を数多く示しています。

この著書では、赤ちゃんが言葉を話せない段階から、他者とのコミュニケーションや関係づくりに深く取り組むことに着目し、これは単なる好奇心ではなく、「群れの中で保護され、生存する」ための本能だと述べています。

人間は生まれた直後から仲間殺しから逃れるための「訓練」をはじめていたというわけです。

また著書では脳の大部分が社会的なつながりに敏感に反応すること指摘。

従来は高等な思考を司る領域こそ人間の核心と見なされがちでしたが、実際には社会的認知のためのシステムが思った以上に広範囲を占めているのです。

人間の脳もまた仲間殺しから逃れるため社会的つながりに敏感になるようにプログラムされていたということでしょう。

さらにLiebermanは、社会から排除されることは脳にとって身体的痛みと同様に深刻なストレスになると主張します。

SNSなどで誹謗を受けたり無視されたりしたときに、まるで身体的傷害”のような苦痛を感じるのは、脳が「仲間外れ」を生存の危機と見なしているからです。

「では、人間はお互いの痛みを理解し、優しくなったのか?」といえば、必ずしもそうではありません。

多くの事例で証明されるように、私たちは「排除する側」に回ることで、自分への攻撃を避けようとする傾向も強く示します。いわゆる「いじめられるより、いじめる側に回ったほうが安全」という理屈です。