たとえばDunbar, R. (2004)らの研究では、ゴシップは単なる悪口や興味本位の噂ではなく、集団内で誰が信用できるのか、誰が危険人物なのかを素早く把握するための「情報交換システム」だったと論じており、人間の会話のうち大部分(研究によっては67にも及ぶ)が、噂話や評判・他人の話題に費やされる可能性があることを示唆しています。

人間の高度な言語能力は情報交換や概念の形成のために進化してきた高尚なツールだと思われてきましたが、この比率をみれば、決してそのような目的が主眼ではなかったことがわかります。

(※もちろん言語には知的ツールとしての側面もありますが、それ以外の用途のほうに大きく情報量を割いている状態にあります)

では何のために人類はゴシップや悪口にここまで力を注ぐのでしょうか?

研究者たちは、ゴシップを共有することで「あいつは仲間を裏切りそうだ」「あの人は集団に貢献してくれる」といった情報がグループ内を素早く回り、排除すべき相手を決めたり、協力すべき相手を判断したりするメリットがあったと述べています。

これは直接的な武器で戦うよりも、周囲の合意を得ながら安全に相手を追い詰める戦略といえます。

狩猟採集社会では、食料資源や縄張りをめぐって、誰が裏切り者か、誰が敵に通じているかが死活問題でした。

ですがそれを正面きって戦うのはコストがかかりすぎます。

それに警察など存在しない狩猟採取時代と言えども、根回しも何もせず気に入らない相手を感情の赴くまま殺したとあっては、自分が危険人物とみなされてしまいます。

そのためリスクの高い単独犯を避けるために噂を広め賛同を得て、集団で排除するプロセスが進化したと考えられます。

ゴシップを巧みに使い、「あいつは危険人物だ」と周囲に信じ込ませれば、安全に排除を進められます。

簡単に言えば、噂と悪口を使って水面下で動くわけです。

そうすると場合によっては自分が手を下さなくても、噂に踊らされた誰かが代わりに「排除」を実行してくれるかもしれません。