神様が見守る中、ベータの社会でも“農耕”と“技術発展”が、必ずしも彼らの攻撃性を抑止する方向には働かなかった。

神様は再び頭を抱える。

「どうすれば、この争いを減らし、ベータたちが互いを理解し合えるのか。狩猟採集も農耕も、技術発展も、互いに攻撃し合う本能を止められなかった。ならば——彼らにもっと情報を交換する術を与えてみよう。」

狩猟採集から農耕、農耕から近代化への流れを一通り眺めた末に、神様は情報革命を起こすことを決意する。

コミュニケーションの手段を劇的に変え、ベータたちがお互いを知り合い、絆を強め、不要な疑心暗鬼や争いを減らせるように——そんな期待を胸に抱いたのだった。

「ベータたちよ、互いに語り合え。遠くの者とでも、言葉や情報を交わし合え。そうすれば殺人の割合も下がるだろう……」

「彼らに互いの考えや感情を、もっと簡単に、もっと広く交換できる手段を与えれば、争いは減るに違いない」

そう考えた神様は、ベータたちの社会にSNSという新技術をもたらす。

ネットワークを通じて、遠く離れた仲間同士が即座に言葉や映像を送り合える――かつての小集団では考えられないほど豊かなやり取りが可能になった。

SNSが浸透すると、ベータたちは国や地域の垣根を越えて、技術や文化、思想を共有し合った。神様はそれを見て胸を高鳴らせる。

「どうだろう、情報不足や偏見による争いが少しでも減るなら、この革命は成功だ」

ベータたちは好奇心に満ち、これまで会ったことのない他者とフレンドリストを作り、コミュニティを広げていく。

たしかに一部では誤解や対立が解消される例も見られた。紛争地域と平和な地域がSNSを介して互いの思いを共有し、衝突が回避される小さな奇跡も起こり始めた。

だが、ある日――神様は、SNSを使うベータたちの中で、どうにも妙な行動が目立ち始めたことに気づいた。

神様が様子を探ると、ベータたちのタイムラインには無数の写真や動画、自分の身の回りの報告が溢れている。