「……そうか。もともと彼らは150〜200人ほどの集団しか維持できない脳で進化してきた。大きな社会に属していても、頭の中では常に“小さな群れ”を想定しているのだ……。」
ベータたちは長い狩猟採集の歴史の中で、仲間に殺される恐怖を常に抱えていた。
死因の15%が仲間の攻撃――そんな世界で生き抜くには、「仲間から排除されない」ことが何より大切だったのだ。
仲間内で悪い噂を立てられないように、他者より優位に立ちたい
自分は有用な個体、群れにとって必要な個体だと周囲に示したい
逆に“危険なやつ”を噂で共有し、排除する(=攻撃で先手を打つ)
この「噂(ゴシップ)に快感と報酬を得る」仕組みは、狩猟採集のころからDNAに刻み込まれていたのである。
「その脳のまま、SNSという広大な空間に放り込まれれば、いったいどうなるか……」
神様はようやく理解する。
SNSでは、数百人どころか何千・何万人の“仲間候補”が目に飛び込んでくる。
脳はそれを“とんでもなく巨大な群れ”と錯覚し、“評価されないと危険だ”“排除されるかもしれない”という恐れを加速させる。
結果、彼らは「自分はこんなに優れている」「こんなに素敵なんだ」という投稿を絶やさずに行い、常に承認(いいね)を欲しがる。
一方で、少しでも不満を抱いた相手には“あいつを排除しろ”と攻撃を集中させる。昔から脳に刷り込まれた「噂を広め、賛同を得て、排除する」手法が、SNSで倍増してしまうのだ。
「仲間内で評価されることで殺されない」という狩猟採集時代に進化したベータたちの原始的な脳が、SNSの場で混乱してしまい、結果として際限のない承認欲求が大量発生した。これがベータたちの奇妙な行動の正体だった。
神様は嘆きとも諦めともつかない表情を浮かべる。
「農耕でも、法整備でも、技術発展でもダメだった。SNSでも……彼らは承認を求め、また仲間を攻撃する。けれど、SNSならば正しく使えば情報や思いを分かち合える可能性もある。果たしてベータたちは、進化の呪縛を乗り越えられるのだろうか……?」