人間が“ダンバー数”と呼ぶものに近い。彼らの脳も、この集団数に合わせて情報をやり取りするように進化を遂げていた。
神様はそんなベータたちを見つめ、思案する。
「どうすれば彼らは殺し合いをやめるのだろうか。そうだ、十分な食料があれば、争いの原因も減るはず」
そう考えた神様は、豊潤な大地を作り出し、ベータたちが農耕を行えるように導いた。作物の種を授け、季節に応じて大地に恵みをもたらす。
ベータたちは戸惑いながらも、新しい生活に慣れ始めた。
森林を切り開いて畑を作り、川から水を引き、収穫物を蓄える。食料が安定すれば、腹を空かせて他者を襲うことも減るだろうと神様は期待した。
しかし、その望みは見事に裏切られる。
農耕生活が始まるとむしろ、彼らの内部での殺人率は20%に増加してしまった。
「土を耕すだけでは、彼らの攻撃性は変わらないのか…」
神様は嘆いた。食料が安定することで逆に人口が増え、集団間の利害対立が複雑化し、土地の占有や富の奪い合いが激化してしまったのだ。
そこで神様は、彼らの技術力を高めようと試みる。
畑が豊作になるよう気候や農作物の性質を調整し、結果的に余裕が生まれたベータたちは道具や建築技術を進歩させた。
こうして集団は都市へと発展し、交易が行われ、初歩的な法体系が生まれ始める。
神様は「法があれば殺人は減るだろう」と期待する。
しかし現実は甘くなかった。
都市部では集団がさらに巨大化し、富や権力をめぐる闘争はいっそう苛烈になった。
法が整備されたとしても、権力者や富裕層同士の対立は絶えず、近代に入った人間社会と同様に、殺人の比率は劇的には減らなかったのである。
(※参考までに、現実の地球でいえば、近代国家の成立後も全世界的な他殺率は数%程度と言われる地域が多数あり、国や時代によってはさらに高い殺人率を示す所もあった。人間同士の戦争や内紛も含めれば、その総計は計り知れない。)