自分の代わりに生贄になってくれる誰かがいれば、脳は偽りの安心感を得ることができるからです。
「自分はそんな酷い人間ではない」と思うでしょう。
しかし炎上という現象を分析すれば、それが真実味を帯びてきます。
SNSではしばしば炎上と呼ばれる現象が起こると、炎上している人物について全く関心がなかった人でも、異常な攻撃性を示すようになります。
これも脳の奥底には「自分は攻撃する側に回ることで安全を得ている」という原始的な安心感がうまれるからです。
巨大なSNSの中ではいつ自分が攻撃のターゲットとされるかわかず原始的な脳は混乱して不安になります。
炎上は自分の代りに集団から排除される人間を手っ取り早く発見し、自分を安全な殺す側に置いてくれる……と脳は錯覚します。
炎上している相手を攻撃している間だけは、安全を買えると脳が誤解し、ときには報酬物質を脳に分泌してくれます。
もちろん、炎上している人物や団体を叩くとき、SNSユーザーは「正義感」や「倫理観」を理由にするかもしれません。
しかし多くの場合、次に殺されるのは自分かもしれないという無意識かつ本能的な恐怖をかき消すために攻撃する側に回る心理が潜在的に働きます。
これこそが、SNS炎上で“関係ない人”が大量に参戦し、過熱する要因でもあるわけです。
脳の誤作動に振り回されないために
こうしてみると、「承認欲求」も「SNS炎上」も、その根底には人類が仲間殺しの危険を回避するために練り上げた処世術があるように思えます。
たしかに近代以降、法律や社会制度が整い、昔のように簡単に人を殺すことは大幅に減りました。
しかし脳の本能は何十万年という狩猟採集の時代からアップデートされておらず、SNSという新環境で大きく誤作動しているわけです。
SNSを「自分の小集団」と錯覚し、必死に自己アピールし(承認欲求)、同時に他者を攻撃し(殺す側に回る)報酬物質を分泌してしまう――この一連の流れが、私たちが言う「承認欲求」や「SNSの異常な攻撃性」という現象を生み出しているのです。