他方、脱炭素政策は必然的にコストアップをもたらす。基本計画原案では「十分な脱炭素電源が確保できなかったが故に、国内においてデータセンターや半導体工場などの投資機会が失われ、我が国の経済成長や産業競争力強化の機会が失われることは、決してあってはならない」としているが、同時に「国内電力コストの高騰がデータセンターや半導体工場誘致を阻害し、ドイツのように我が国の製造業が生産拠点の海外移転を考えるようなことは決してあってはならない」のである。

今回の素案では「脱炭素化に向けた取組の実行にあたっては、脱炭素化に伴う社会全体のコストを最小化していく視点が重要。特に、排出削減が進むにつれて、温室効果ガスの限界削減コストが相対的に高い対策にも取り組む必要があるため、経済合理的な対策から優先的に導入していくといった視点が不可欠。こうした考え方の下、S+3Eの原則に基づき、脱炭素化に伴うコスト上昇を最大限抑制する」とされている。

ここでどの程度のコスト上昇を許容するのか、主要貿易相手国、競合国との関係で相対的に過大なコスト負担になっていないかが決定的に重要である。その点があいまいなのは気にかかる。

例えば2040年の発電コスト見通しの中で、ペロブスカイト太陽電池の大量導入やシステムコストが莫大な浮体式洋上風力のコストをきちんと評価していないことには強い疑問がある。再エネ主力電源化においてこれらの技術に大きな役割を期待していながら、2040年時点での導入量が不確実であるとの理由でそのコストから目を背けることは片手落ちではないか。

政府に是非期待したいことは、エネルギー基本計画で示された方向に向かう際の「値札」を常にチェックし、国際的な負担の公平性を比較するプロセスを確立することである。他国とのエネルギー価格差において何等かのベンチマークを設けることも考えられる。

4つの「都合の良いシナリオ」が想定されたコストで実現する保証は全くない。コスト負担増が日本の国益を阻害するようであれば、「リスクケース」で想定されたようにエネルギー安定供給を脱炭素化に優先させることを躊躇してはならない。