しかし今回のシナリオ設定で最も重要なのは、それらの「都合の良いシナリオ」と併せ、「2040年度時点において再エネ、水素等、CCSなどの脱炭素技術の開発が期待されたほど進展せず、大幅なコスト低減等が十分に進まない」シナリオを「リスクケース」として想定し、「こうした場合にも、経済成長を実現しながら、国民生活をエネルギー制約から守り抜く観点から、諸外国の対応も踏まえつつ、LNGの長期契約の確保など、エネルギー安定供給の確保に万全を期す」と明記したことだ。

残念だったのは、供給面ではリスクケースを含め、様々なケースを想定していながら、最終エネルギー消費については全てのシナリオで2.6~2.7億キロリットル(2022年度比▲12~▲15%)に揃えられていることである。

ドイツでは、あまりに厳格な建物規制のために、新築も改築も進展しない状況が生じており、製品寿命の短い輸送部門でも同じように買い替えを手控える動きが出ることも予想される。最終エネルギー消費が上ぶれするリスクも考えるべきだ。

筆者の見るところ、削減目標先にありきの「都合の良いシナリオ」よりも「リスクケース」の蓋然性の方がはるかに高い。リスクケースでもエネルギー安定供給に万全を期すということは、温暖化目標をすべてに最優先するのではなく、コスト如何によってエネルギー安定供給を優先することを意味する(リスクケースの温室効果ガス排出量は19年比▲56%)。

これはウクライナ戦争前の脱炭素最優先的な風潮では考えられなかったことであり、エネルギー政策のバランスが正常化に向かっていることを示すものだ。

1.5℃目標の呪縛とパリ協定

目標設定議論の前提となっている1.5℃目標がそもそも崩壊していることは改めて指摘しておきたい。1.5℃目標の非現実性についてはこれまで繰り返し発信してきたところである。

The Death of the 1.5 Degree Climate Target