エネルギー基本計画案と併せて提示されたエネルギー需給見通しにおいて、複数シナリオが提示されたことも評価できる。

第6次エネルギー基本計画においては菅総理(当時)、小泉環境大臣(当時)が表明した2050年カーボンニュートラル、2030年46%減(2019年比)という実現可能性の裏付けのない目標と辻褄あわせをするため、これも実現可能性の裏付けのないエネルギー供給構成、電源構成を提示した。

大規模なイノベーションを前提とした願望的な(aspirational)目標に過ぎない2050年ネットゼロ目標から直線でバックキャストして中期目標を設定することは、中期目標自体の実現可能性にも多くの不確実性をもたらす。

そもそも国際エネルギー情勢やクリーンエネルギー技術のコスト低下に多くの不確実性があることに加え、電力市場が自由化されている中で、特定の温室効果ガス削減目標を前提とした10年以上先のエネルギーミックスを特定することに意味があるとは思えない。

今回、削減目標設定に当たって、2035年60%減、2040年73%減(いずれも2019年比)と、2050年カーボンニュートラルに向かう直線上に設定する案、2035年66%減以上と2050年への直線経路よりも急速な削減(下に凸)を求める案、2050年への直線経路よりも緩やかな削減(上に凸)とする案が検討され、直線上に設定する案が採用された。

46%削減と同じ考え方であるが、「妙に具体的」な上下に凸案に比べて「実現可能性を考えず、えいや!と設定した」感が出て、かえって良かったのではないか。

今回は、こうした「えいや!」的な目標に向けてエネルギーミックスを特定せず、エネルギー起源CO2を2040年に19年比▲70%(温室効果ガス2035年60%減、2040年73%減と整合的)を達成する4つのシナリオ(再エネ拡大、水素・新燃料活用、CCS活用、革新技術拡大)を提示した。いずれも再エネ技術、水素技術、CCS技術の一部あるいはすべてで大幅なコスト低減が実現することを前提としている。