ガソリンや電気代の高騰が国民生活を直撃し、政府はガソリン補助金、電力・ガス補助金の導入を余儀なくされた。そうした中で原発再稼働が進んでいる関西、九州において電気料金が安くなっていることは、原発利用に対する国民理解を増進することになった。

更に福島原発事故以降、反原発メディアやNGOが日本のモデルとして絶賛してきたドイツの惨状も大きい。緑の党の偏った政策の下で脱原発と再エネ推進を同時に行った結果、ドイツでは電力コスト、エネルギーコストが大幅に上昇し、多くの製造業が生産拠点の海外移転を検討している状況にある。この結果、震災直後の「ドイツを見習え」論は影をひそめ、むしろ「ドイツの轍を踏むな」という議論がよく聞かれるようになった。

これらが相まって反原発メディアの筆頭である朝日新聞の世論調査でさえ原発再稼働、活用に対してポジティブな見方が強まり、岸田内閣の時に原発活用方針が打ち出された。今回の見直しはその流れをくむものである。

もちろん「原発依存度の低下」を削除し、リプレースを廃炉原発の同一敷地内以外にも認めるという条件緩和だけでは日本の原子力を復活させることにはならない。

原子力と再エネとの二項対立の図式から真に抜け出すには、非FIT非化石価値の取り扱い(市場設定、価格)に関して、原子力と再エネを区別しないことを政府が明確にする必要がある。原子力の非化石価値が評価されるようにするためにも、政府が率先して、無差別で両方の非化石価値をSCOPE2排出削減に使用するべきだ。

更に長期にわたって莫大の投資を有する原子力への政策支援措置の整備、特に発電事業者が電気と非化石価値という収入から確実に投資回収出来る総括原価に代わる仕組み、原子力安全規制の合理化、原子力賠償の無限責任の見直し等、やらねばならないことは山積している。

何より日本の原子力を復活させるという政権の強い決意と行動が不可欠である。それが実現するかどうかは不安もある。それでも今回の案は正しい方向への確かな一歩になったと思う。

複数シナリオとリスクケースの設定