筆者は全体として今回の素案を評価する立場である。

原発の位置づけの明確化

まず、第4次エネルギー基本計画以来、日本のエネルギー政策を呪縛してきた「原発依存度の可能な限りの低減」が削除され、「再生可能エネルギーか原子力かといった二項対立的な議論ではなく、再生可能エネルギーと原子力をともに最大限活用していくことが極めて重要」との考え方が明記されたことだ。

これは「すぐに使える資源に乏しく、国土を山と深い海に囲まれるなどの地理的制約を抱えているという我が国の固有事情」を考えれば至極当たり前の議論であり、筆者も一貫して「原子力か再エネか、ではなく、原子力も再エネも」を主張してきた。

しかし福島事故以降、反原発メディア、反原発団体・環境NGO等はことあるごとに原発と再エネを二項対立としてとらえ、まだ使える原発を全廃して再エネに代替するという経済合理性を無視した主張を展開し、世論にも大きな影響を与えてきた。

日本は民主国家であり、時の政権はメディアが作り出す「世論」を無視することはできない。この結果、日本のエネルギー政策において原発活用はタブー扱いされ、我々の先達たちが営々として築いてきた日本の原子力産業、技術、人材が立ち枯れかねない状況に陥った。

原発への忌避感を扇動し、原発が動かない状況を長期化させれば、脱原発を政府の方針として決定しなくても、日本の原子力産業は自然死するであろうというのが反原発派の目論見であったと思う。その意味で「原発依存度の可能な限りの低減」は彼らの拠り所であり、第6次エネルギー基本計画策定過程において経産省はこれを削除しようと試みたが、反原発派の閣僚に阻まれて断念せざるを得なかった。

今回、ようやく二項対立の呪縛から脱却できた理由は、我が国をとりまくエネルギー情勢の変化が大きい。特にウクライナ戦争、ハマス・イスラエル戦争等により国際エネルギー情勢の不透明性が高まり、エネルギーの低廉かつ安定的な供給の重要性が強く認識されるようになった。