ですがそうなると、いくつか気になる点が出てきます。

たとえば「物体が物質波として飛んで行っている最中に、ちょっかいをかけたらどうなるか?」という疑問は、非常に好奇心をくすぐります。

そこで今回、コンスタンツ大学の研究者たちは、単一の電子が物質波として移動している最中に、渦巻き状の光を当て、何が起こるかを調べることにしました。

ここで言う「渦巻き状の光」とは、通常の光の波長がスクリューのようにに回転しながら進む光であり、このような光が当たった物体に特殊な回転力を与えたり、別の波に当たった場合には波の周期を変えることが可能です。

通常の光がストレートパンチだとするならば、渦巻き状の光はスクリューパンチと言えるでしょう。

光のスクリューパンチを受けてしまった電子はどうなってしまうのでしょうか?

「単一電子」が光のスクリューパンチでコイル状に変化

コイル状の単一電子の物質波が生成されている様子
コイル状の単一電子の物質波が生成されている様子 / Credit:Structured electrons with chiral mass and charge

光のスクリューパンチで空中を飛んでいく電子の物質波はどうなるのか?

謎を解明するため研究者たちは実験セットを組み立てました。

まず「超高速電子顕微鏡」と呼ばれる特殊な装置を用いて、極めて短い時間パルスの電子をつくります。

これは、ふだんの電子顕微鏡よりもはるかに速い「シャッター」機構を備えており、多くの場合、電子がほぼ1個ずつバラバラに飛び出すほど希薄なパルスに制御できます。

結果として、1個の電子を狙ったタイミングで射出することが可能になります。

次に、電子が進む空間に「渦巻き状の光」を通す仕組みを作ります。

ここでポイントとなるのが、ナノメートルスケールの極薄膜(たとえば窒化ケイ素膜)を用いることです。

電子1個の物質波と「光のスクリューパンチ」を同じ空間へ通過させる際、この極薄膜が光の状態を変化させ電子との相互作用が可能になります。