(※ここで言う角運動量とは軌道角運動量のことを示します)
またこうした「螺旋状」の電子(カイラル波パケット)を、同様にキラルな性質をもつナノ粒子に散乱させたところ、興味深い結果が得られました。
左巻き電子を左巻きナノ粒子に当てると、電子側のカイラリティは弱まり、右巻きナノ粒子に当てると強まる――その逆の組み合わせについても同様の変化が見られたのです。
研究者たちはこの結果について「光パルスが電子の波動関数にキラリティー(左右の回転)を刻み込み、電子に実際に分極や角運動量を与えることなく、電荷と質量を持ったコイルに変換している」と述べています。
またコイル状の電子の質量の分布を調べた結果、質量の中心はコイルの中心を貫く直線上に存在することが明らかになりました。。
研究者たちは、今回の発見がさまざまな分野で応用できる可能性を秘めていると考えています。
具体的には、電子顕微鏡、磁性材料の研究、そして光ピンセット(非常に小さい物体を光の圧力で掴む)などで有用だと予測されています。
さらに研究者たちは「このコイル電子自体が、もし自然界に存在するなら、宇宙論的な意味を持つかもしれない」と述べています。
(先に述べたように)もし自然界で左右にねじれた電子の物質波が見られ、それが何らかの対称性の破れを増幅・反映しているなら、物質—反物質非対称やパリティ破れの理解につながるかもしれません。
また電子がコイル状の波動状態を部分的に形成できるなら、宇宙初期のプラズマの伝搬モードや乱流の性質が変わり、大局的な構造形成(密度揺らぎの成長など)に微細ながら影響を与える可能性もあるでしょう。
もし遠い将来、人間の物質波をコイル状にするイタズラが実現したのなら、物質化した人間は螺旋状にねじれたまま実体化してしまうかもしれませんね。
もっとも、その頃には「真っ直ぐに戻す装置」もきっと開発されていることでしょう……たぶん。