奴隷労働への依存度の高かった地域では、黒人と見ればだれかの奴隷であることがわかるほど奴隷率が高いと、強制的な労働を効率化するには欠かせないきびしい監視のコストが安かったからです。
逆に、黒人の99.1%以上が自由民という地域を意図的につくった理由はなんでしょうか。白人にとって奴隷率が9割以上の地域は、黒人禁猟区でした。
あとでくわしくご説明しますが、黒人奴隷ひとりの価格は比較的安めの時期でも戸建て住宅1戸分というほど高かったため、黒人を殺せば高額の賠償金を請求されることが多かったので、奴隷解放前は奴隷州での黒人リンチはめったにない事件でした。
それに対して、黒人はほぼ全員自由民、つまりだれの所有物でもない地域では、白人が憂さ晴らしに黒人を射殺したり、陰惨なリンチで殺したりしても、ほとんど責任を問われることのない、黒人猟解禁区だったのです。
白人の所有物でないかぎり、黒人を殺しても家族に高額の賠償金を請求されることはあり得ないし、裁判になったとしても陪審員はほぼ確実に全員白人なので、無罪や軽い刑罰で済むことがわかっていたからです。
奴隷解放前の極端に残虐なリンチは、たいていの場合中西部の5大湖周辺あたりで起きていました。
黒人奴隷の境遇がとくに悲惨になるのは、カップルができ子どもが生まれたときです。その子どもは自分たちの子どもではなく、ご主人様の所有物なのです。
まだ幼いうちになま木を引き裂くようなかたちでよその農園に売り飛ばされるかもしれないので、生まれたばかりの子どもの両親は、卑屈なまでにご主人様の言うことを聞いていれば少しでも長く子どもと一緒に過ごせるかもしれないという心境になります。
そして、いつまで一緒に暮らせるかわからないので、子どもが物心ついた直後から一生障害が残るような残虐なせっかんを受けずに比較的平穏に暮らすにはどうすればいいかを懇切丁寧に教えこまなければなりません。