この考え方では、宇宙を「時計」とそのほかの部分がもつれ合った構造として見ることで、アインシュタインが描いた「空間と時間が一体になった時空」というイメージと、量子力学の「外から与えられた時間パラメータに沿って、系の状態が確率的に変化する」という捉え方を、内側から結びつけることができます。
そこで今回、フィレンツェ大学の研究チームは、2つのシステムの間に量子もつれを形成し、そのもつれから「時間」が生まれるのではないか──というPaW機構の発想を検証することにしました。
すると、物理学の世界でよく知られたある方程式が、まるで時間そのものが存在しないかのように書き換わってしまうという、驚くべき結果が得られたのです。
時間を否定するもう1つのシュレーディンガー方程式
時間はどんな姿をしていたか?
謎を解明するために研究者たちは、2つのモデル系を用意しました。1つは周期的に振動する「調和振動子」(以下「振動するシステム」)、もう1つは「磁気時計」です。
これら2つの系は直接的な相互作用は行わないにもかかわらず、量子力学的な「もつれ」状態にあります。
もつれとは、お互いの状態が密接に関連し、一方を測定すれば他方の状態についての情報が得られるような特別な関係です。
もつれ状態では、片方の状態が確定すると、もう片方の状態に関する情報も同時に確定するというユニークな特徴があります。
そして振動するシステムは何かが進んでいる状態、つまり「時間の流れ」と結びつけられ、磁気時計は上向き・下向きといったスピンの「向き」が「針の位置」や「時計盤の数字」のような役割を担い、私たちが「今、このくらい時間が経った」と読み取る手段となります。
この2つが量子もつれの関係にある場合、振動するシステムが「高いエネルギー状態」なら、時計(磁気時計)のスピンが「上」を向く、システムが「低いエネルギー状態」なら、時計のスピンは「下」を向く……といった関係が発生します。