出典 監視等委、2022(太字筆者)

監視等委は内外無差別を求めるにあたり、強制力を持った制度ではなく旧一電等に対する自主的なコミットメントの要請というアプローチを採った。監視等委(2022)からは、このアプローチを採る背景となった監視等委の考えとして、次のことが読み取れる。

第一に、独禁法には、直ちに内外無差別を義務付ける規定がない。すなわち、強制的な措置を採る根拠がない。

第二に、内外無差別は利益を最大化する行動であって、強制されなくても要請を受けることが旧一電等にとって合理的な行動のはずである。さらに付言すれば、監視等委(2022)からは「自社シェアの維持または拡大を優先する薄利多売戦略に陥りがちであった旧一電等に対し、社内外問わず高く売れる相手に売る、より合理的な行動を促した」という意識がうかがえる。監視等委がこのような論旨をもって各社にコミットメントを説得した局面もあったのではないかと推察する。

なお、監視等委は独禁法に内外無差別を義務付ける規定がないことを言明しているが、電気事業法では微妙なところがある。電気事業法上の趣旨を根拠にすることが考えられ、実際、監視等委は限界費用玉出し(大手電力が余剰供給力の全量を限界費用に基づく価格で市場に投入すること)を「適正な電力取引についての指針」に記載する際にこの理屈を用いたことがある(戸田、2023)。

電気事業法の趣旨とは同法第1条で言及されている「電気事業の運営を適正かつ合理的ならしめる」ことと理解されるが、監視等委は、この「合理的」の語をもって、経済学の教科書の理屈を単純に適用して限界費用玉出しを求めたと考えられる。筆者はこのような適用は感心しない。監視等委も今のところ、内外無差別についてこうした電気事業法の適用は考えていないようである。

4. 監視等委による内外無差別推進政策への疑問

このように推進されてきた内外無差別な電力卸売について、監視等委では、これまでの取り組みをまとめた「内外無差別な卸売等のコミットメントに基づく評価の考え方(案)」(監視等委、2024)を採択し、パブリックコメントに付している。今後の情勢変化に対応した政策の見直しの可能性に言及しつつも、ここまでの取り組みについては追認する内容となっているが、筆者は現段階でも問題があると考えている。