監視等委が推進する内外無差別な電力卸売政策は、公正な競争環境の整備を目指しているが、多くの課題が指摘されている。特に、地域密着性の希薄化、評価基準の厳格化による事業者への負担増、経過措置の解除遅延、電源投資インセンティブの低下などの問題が浮上している。これらの課題に対し、電力システム改革そのものの見直しが必要とされている。
戸田 直樹:U3イノベーションズ アドバイザー 東京電力ホールディングス株式会社 経営技術戦略研究所
- はじめに
電力・ガス取引監視等委員会(以下「監視等委」)がここ数年重点的に進めている政策に、内外無差別な電力卸売の推進がある。
内外無差別な電力卸売とは、発電事業者による卸売取引について、同一グループ内の小売電気事業者とグループ外の小売電気事業者を同等に扱うことである。
現在の電力システムでは、電力卸売分野は競争領域であり、通常は、社内取引も含めて事業者が誰とどのような条件で契約するかは自由であるが、監視等委は旧一般電気事業者(以下「旧一電」)及びJERA(以下「旧一電等」)の大手発電事業者に対してこれ(内外無差別)を求めている。その目的は「旧一電等が発電設備の大宗を保有している中で、小売電気事業者間で電源アクセスのイコール・フッティングを確保し、小売市場における競争を持続的に確保するため」とされる。
監視等委では、内外無差別に関するこれまでの取り組みをまとめた「内外無差別な卸売等のコミットメントに基づく評価の考え方(案)」(監視等委、2024)を採択し、パブリックコメントに付している。今後の情勢変化に対応した政策の見直しの可能性に言及しつつも、ここまでの取り組みについては追認する内容となっているが、筆者は現段階でも問題があると考えており、本稿の目的は筆者が考える問題点を紹介することである。
本稿の構成は次のとおりである。2.及び3.で内外無差別に関する監視等委の取り組みの経緯とその背景にある考え方を整理し、4.で筆者が考える問題点を紹介する。5.はまとめである。
- 内外無差別な電力卸売を求めた経緯