【第69回電力・ガス基本政策小委員会 大橋委員】 2点目ですが、価格のヘッジが進む一方で、数量に対しては、ヘッジが効かないということも明らかになったんだと思います。そもそも我が国は燃料に乏しくて、調達の量とタイミングを計画的に行ってきていたわけです。地域独占と総括原価というのはそうした燃料調達にフィットした制度だったということだと思います。燃料調達の計画性の課題が十分に解消されないまま自由化をしたということで、この点の齟齬が燃料調達に起因する安定供給の課題を浮き彫りにしたというのが、2021年の秋頃だったんじゃないかなと思います。この点と、kWの投資不足は恐らく密接にリンクをしていて、内外無差別によって小売と発電を価格で切り離すということが、燃料調達を行う事業者の量における不確実性とリスクを高めたということなんじゃないかと思います。

出典 各審議会議事録(太字筆者)

5. おわりに

監視等委が進めてきた内外無差別な電力卸売を促進する取り組みについて、その経緯と筆者が感じている問題点について述べてきた。

監視等委が競争促進を目的に進めてきた取り組みとしては、3.と4.4で言及した限界費用玉出しと内外無差別が代表的であるが、両者には共通する問題があると思料する。すなわち、経済学の教科書が表現する理想的な世界の理屈を単純に信奉しすぎていないか。

どのプレイヤーも市場支配力が行使できない世界では、限界費用玉出しも内外無差別も利益を最大化する合理的な行動であるから、「旧一電等は市場支配力を行使する意図がないなら、規制されなくても自主的にこれらの行動を行うはずだ」といったスタンスで、法的根拠が曖昧なまま旧一電等にこれらの行動を強いてきたとは言えないか。

しかるに、現実の電力市場、電力システムはそれほど単純なものでない。限界費用玉出しは旧一電等に対して、電源固定費の回収機会を奪う非合理な不利益をもたらし、電力システム全体で見れば、電源部門の過小投資を招来し、足元の電力需給不安の主因となった。内外無差別についても電力需給不安をもたらす懸念等、問題点を本稿の4.で指摘した。