旧一電等による内外無差別な電力卸売が徹底されることにより、電源投資のインセンティブを削ぐ、燃料調達の不確実性とリスクを高める、ひいては電気の安定供給に悪影響が及ぶ懸念がある。思考実験してみると、例えば次のようなメカニズムが考えられる。

【考えられるメカニズム その1】 電力システム改革後の発電市場は、誰でも参入出来る市場であるが、発電設備の建設・運転・燃料確保は相応にリスクを伴う事業である。内外無差別の徹底により、電源を保有していなくても、旧一電等が保有する電源を持ち主と同等の条件で契約できるのであれば、多くの新電力はあえてリスクを負って電源を新設しようとはしないだろう。

【考えられるメカニズム その2】 旧一電等が内外無差別を要請されてるのは、多くの電源を保有し、発電部門における支配的事業者とみなされているからである。したがって、わざわざ発電事業に関わるリスクを負担して、わざわざ自由に売り先を決められない供給力を増強して、わざわざ支配的事業者であり続けようとするインセンティブはないだろう。

【考えられるメカニズム その3】 旧一電等による電源の立地地域においては、地域の低廉安定な電力供給に貢献するならとして、迷惑施設が受け容れられてきた経緯がままある。しかるに、内外無差別を徹底すれば、旧一電等の電源を誰が活用するのか不透明になり、地域の安定・低廉な電力供給との関係は希薄なものになる。電源の新設時などにおいて、立地地域との関係に良くない影響が及ぶことが考えられる。

内外無差別を徹底した結果、電気の安定供給に悪影響が及ぶ懸念は、直近の審議会でも複数の委員が指摘している。これらも紹介しておく。各審議会の議事録からの引用である。

【第64回基本政策分科会 遠藤委員】 最後に、内外無差別問題についてなんですが、寺澤委員も仰せでしたが、どこまで旧一般電気事業者に外への公平供給の義務を課すのか、この制度も電源投資へのインセンティブをそぐものだと思っています。事業者が多大で長期に及ぶ投資、事業リスクを一方的に負うのは問題です。