すると人体が光速に近づくにつれて、地上ではあり得ない現象が起こり始めます。
まずもって、宇宙空間で進む光の速さは誰が見ても一定で変わらないことがわかるでしょう。
これはアインシュタインが特殊相対性理論の中で示した「光速度不変の原理」と呼ばれるものです。
例えば、魔法の膜をまとった人間が光速の60%のスピードで宇宙を飛んでいるときに、横から光が追い抜いていったとします。
普通に考えれば、その光の速さは光速の60%で移動している人からすると、光速の40%のスピードに見えると思いますよね。
これは誰もが日常的に経験していることです。
例えば、時速60キロで走る車は、地上に立っている人からすると、そのまま時速60キロで走っているように見えます。
しかし時速40キロで走っている車からすると、本来より遅い時速20キロに見えるのです。だから高速道路で追い抜かれるとき、自動車はゆっくりと横を通り過ぎていくように見えます。
ところが真空中を進む光速ではこれが起こらないことが現代物理学の観察結果となっています。
つまり、宇宙空間で止まっている人にとっても、光速の70%で飛んでいる人にとっても、光の速さはまったく同じ秒速29万9792キロメートルに見えるのです。
ところが「光の速さが誰から見ても一定である」というルールを受け入れてしまうと、物理的に矛盾が生じます。
本来の物理法則であれば、光速の60%で飛んでいる人には光の速さが通常より遅く見えるはずなのに、実際にはこれが起こりません。
そこでアインシュタインはこの矛盾を解消するために、逆転の発想をしました。
つまり、光の速さがどんなスピードで移動している人にとっても同じに見えるように、「時間」と「空間」の側が歪むのだと。
小学校でも習う通り、速度とは時間×距離で表されます。どんな速度から見ても相対速度が一定になるよう辻褄を合わせためには、時間と空間を歪めてしまうしかないのです。