自社株買いは勢いづく。大和総研の中村昌宏氏の集計では、22年1~11月の実施額は943社で計8兆5106億円に上り、データがある02年以降で最多だ。1社あたりの規模も膨らんだ。日立製作所やソフトバンクグループなど1千億円超の実施も目立つ。

国内の上場会社の株式の3割(金額ベース)は外国人投資家が握る。安倍晋三政権で財務省、内閣府参与を務めた事業家の原丈人氏は「会社は外国株主ではなく社員と社会のために経営すべきだ」と苦言を呈す。

ただ、日本では債権者を守るため、米国のような過度な自社株買いは会社法で禁じられている。剰余金の範囲内でだけ許されている。金額も米国の10分の1以下にとどまる。自社株買いが増えていること自体を問題視すべきではない、との見方もある。

「強欲株主」が企業を弱体化させる 澤上篤人 日経新聞

はっきりしているのは、「企業は株主のものである」の論理を究極まで推し進めている米国では、多くの企業が弱体化し、持続的成長どころではなくなっていることだ。やれ配当だ、やれ自社株買いだで、企業の内部留保をどんどん取り崩させている。

その横で、強欲株主たちは長期視野の研究開発などの投資は、目先の利益につながらないといって削り落とさせている。それどころか、M&A(合併・買収)やレバレッジドバイアウト(LBO、相手先の資産を担保に した借り入れによる買収)などで短期的に利益を積み上げるように迫る。

厄介なのは、学者先生らが米国での現象は何でもかんでも日本へ導入すべしと主張することだ。例えば、日本企業のROE(自己資本利益率)は低過ぎる、米国レベルまで高めるべしと迫る。

長期的な投資戦略など捨てて、内部留保を自社株の買い入れ消却に回せば、ROEは跳ね上がる。短期志向が極まりない手法で高めたROEの数値をもって、日本企業のROEや株主重視の姿勢は高まってきたと学者先生は言う。

その企業が持続的な成長をするのに必要な先行投資よりも、単にROEを高めたという現象をもって良しとする風潮など、もっての外である。