しかも株主還元には既に配当という手段もあり、その方が優れていて開放性も高い。配当と自社株買いの主な違いは、配当が公平で公開されているのに対して自社株買いは不透明な点だ。企業が通常の配当を維持したいのなら、特別配当を実施することができる。

しかしSECは1980年代に高まった規制緩和を求める圧力に屈し、おおよその規模や期間を明らかにすることを条件に自社株買いを適法化。他の国の規制当局もSECに追随した。

SECの決定を受けて税務当局は経済的な考察を行い、自社株買いを配当とまったく同じに扱うべきだった。実際には、自社株買いを税制面で優遇し、政府の税収がいくらか減るという副作用も招いた。

株式分割や株式による配当支払いのときに行う調整を自社株買いには適用しなかった。自社株買いによって企業の1株当たり利益を人為的に押し上げることができるから、経営者も自社株買いを好んだ。

ゴ-ルドマンが1880年以降のS&P総合500種構成企業の株主還元を調べたところ、2009年第3・四半期に始まった現在の景気回復局面では総額8兆ドルが株主に還元され、その60%余りを自社株買いが占めた。

ゴ-ルドマンのまとめによると、企業利益に占める株主還元の割合は1971─82年は半分程度だったが1983-2001年には70%に上昇。2002年以降は90%に高まっており、こうした懸念が裏付けられた形だ。

また比較的新しく、あまり知られていないことだが、自社株買いには指数連動型投資を歪曲するという問題もある。非公開の自社株買いで発行済み株式数が減ると当該企業の正確な時価総額が把握できない。

自社株買いは「悪」なのか「新しい資本主義」の迷走が示すもの 朝日新聞

日本では01年の商法改正で自社株買いが自由化された。新規増資で企業が調達する額を上回るようになり、「株式市場はもはや資金調達の場ではなくなった」。賃金や設備投資が伸び悩むなか、利益が株主還元にばかり使われているのでは、と問題視した。