パリ協定合意以来、資金援助に対する途上国の要求水準は増大するばかりであった。欧米先進国は、産業革命以降の温度上昇を1.5℃~2℃に抑制するというパリ協定の温度目標の中で最も厳しい1.5℃安定化、そのための2050年全球カーボンニュートラルをデファクトスタンダードにし、自分たちの目標を引き上げることはもちろん、新興国、途上国に対しても目標引き上げを迫ってきた。

2023年のグローバルストックテイクには、1.5℃目標達成を射程内に収めるために野心的なエネルギー転換の方向性が盛り込まれたが、野心的な方向性を打ち出せばそのための資金需要も当然に増大する。先進国が主導した野心レベルの引き上げが、途上国からの請求書の大幅増額という形で自らにかえってくるのは必然であった。

今回の「少なくとも3000億ドル」という金額は、途上国が要求していた1.3兆ドルに比べればいかにも少額かもしれない。しかし2035年までに「最低3000億ドル」が実現するかは大いに疑問である。

現行の年間1000億ドルですら達成までに13年を要し、先進国の経済状況が厳しい中、途上国への巨額な資金移転は国内政治的に決して容易ではない。仮に米国でハリス政権が誕生し、3000億ドルの中で米国に応分の拠出をしようとしても、議会がそれを阻んでいたであろう。

次期トランプ政権は国内石油ガスを「掘って掘って掘りまくり(drill, baby, drill)」、米国のエネルギードミナンスを確保する一方、パリ協定からの離脱はもとより気候変動枠組条約そのものからも離脱する可能性がある。

当然、トランプ政権の4年間(共和党政権が続けば更に4年間)で米国からの気候資金は一切期待できない。さりとて日本やEUがその埋め合わせをするとは考えられない。そうなれば3000億ドルに向けた資金援助の積み上がりが更に低下することになる。今後の10年間は途上国が先進国の支援レベルの低さと約束不履行を追及する構図が常態化することになるだろう。