従来COPの世界では、再エネや水素、EVといった既に実用化され、コストも下がってきたとされている技術を使うことで、短期間で一気に産業の脱炭素化投資が進み、大幅排出削減を実現して1.5℃目標を達成する・・といった楽観シナリオが語られることが多く、政府はそれを巨額の気候資金で後押しするという政策論が繰り返されてきた。
しかしいざその実施段階になると、水素や再エネもインフラとしての供給コストは決して安くはならず、それを使ってできた高コストなグリーンな製品が高く売れる市場はまだどこにもないというのである。つまり理想として掲げられている脱炭素型経済が、市場経済の現実の壁に突き当たりはじめた・・というのがCOP29で企業関係者から得た印象である。
持続可能なグリーン市場に必要な政策転換政府の政策は再エネ投資やEV・バッテリー生産設備への補助金など、供給サイドへの支援に偏っており、EV購入補助金など一部需要サイドへの支援は見られるものの、例えばそうしたグリーン消費財に使われるグリーンな素材や部品といったサプライチェーンの中間段階でのコストアップを確実に価格転嫁して投資回収を保証する仕組みは議論もされていない。
最終消費者が補助金なしで長期的に自発的にグリーン製品に応分な対価を払って購入するといった大規模なグリーン市場創出についても政策の光があたっておらず、いまだ市場予見性がないというのが実態である。「政府はもっと市場に目をむけた政策を進めるべきだ」という声が産業界関係者から共通に聞かれた。
企業は市場の需要に対して投資を行い、製品やサービスを提供して収益をあげるという形で経済活動を行うのが原則であり、政治的に不安定な政府補助金をあてにして収益を確保するというのはビジネスモデルとしての継続性がない。
各国がパリ協定の掲げる各国の野心的な目標に向けて具体的な対策の実施段階に入った今、高くても環境に良いグリーン製品に対する世界的な需要創出と、サプライチェーン全体で対策コスト(=カーボンプライス)を公平に負担していく仕組みづくりという新たな政策課題に取り組んでいかないと、この脱炭素型経済へのトランジションの壁を乗り越えることができず、早晩産業界の対策は勢いを失っていくのではないか・・そうした懸念が頭をもたげてきたという印象を強くもってCOP29から帰ってきた。