既に今回のCOP期間中にアルゼンチンが交渉団を帰国させたミレイ大統領が、その直後に訪米して選挙後初めて国のトップとしてトランプ次期大統領と面談している。気候変動問題そのものに懐疑的とされているミレイ大統領の率いるアルゼンチンが、来年早々に米国とともにパリ協定、ないしは枠組条約そのものから離脱表明する可能性も否定できない。
脱炭素化の現実的な課題と市場の未成熟以上がトランプ再選がCOP29に落とした影に関する筆者の所感である。今回のCOP29で筆者がもう一つ強く感じたのは、早期大幅削減を具体的に実施していく上での現実的な障害や課題の顕在化である。
会場内で行われていた様々なサイドイベントに参加し、また欧米中心に産業界からの参加者と意見交換をした中で聞いたのは、産業、特に鉄鋼やセメント・化学といったいわゆる大量排出かつ削減困難(hard to abate)な産業の大幅削減は一筋縄では進まず、その移行(トランジション)期に様々な課題が持ち上がってきているという不都合な事実である。
欧州の関係者からたびたび聞いたのは、こうした産業の脱炭素化には大量の水素や非化石電源が必要となるが、特に水素供給インフラ確立のめどはたっておらず、コスト高や採算性の欠如などから多くの水素プロジェクトがキャンセルないしは延期され、それをあてにした削減対策が進められなくなっているという話であった。
また欧米の産業界やイベント登壇していた新興国産業界関係者からも、巨額のコストをかけて排出削減して作られるグリーンな素材や製品について、十分な価格転嫁をしてそれが売れるようなグリーン製品需要が未成熟だという共通の悩みが聞かれた。
水素や非化石エネルギーを使って生産されるグリーンな素材や、それを使ったグリーン製品・サービスは、必然的に従来製品より高コストになるため、そのコストを価格転嫁して回収するめどが立たなければそもそも対策投資が行えない。投資判断には政府による初期投資への補助金などの支援策だけでは十分でなく、投資回収に必要十分な収益の長期予見性がないと、技術はできても事業化はできないという悩みである。