トランプ大統領が条約離脱を強行し、その有効性が裁判になった場合、その最終判断は共和党色が強い現在の最高裁判所に委ねられることになる※2)。COP29の会場で話した米国関係者によると、そうした事情も踏まえてか、上院共和党関係者の間では条約離脱を行う場合、「米国は中国が気候変動枠組み条約において先進国(Annex1国)と同等の責任・義務を負うことを認めない限り条約から離脱する。」と宣言する戦法も検討されているということであった。

もともとトランプ元大統領は、中国が米国と同等の削減・報告・資金拠出義務を負わない条約は不当としてきたので、この戦法をとれば仮に中国が条件をのめば条約にとどまって中国にも負担や義務を求め、中国が拒否すれば「米国が離脱したのは中国のせい」と、道義上の責任を中国に押し付けることができるようになる(少なくとも米国内向けには納得感が広がる可能性がある)。

では米国が抜けた気候変動枠組条約はどうなるだろうか?

まず米国からの資金拠出が一切なくなることは覚悟する必要がある。今回合意された300億ドルの途上国支援目標のめどが立たなくなるどころか、現下の100億ドルの支援における米国の分担も大きく低下するだろう。

さらに肥大化した国際機関となっている条約事務局の運営拠出金もカットされ、その運用に支障をきたす可能性も出てくる。またCOPを支援資金獲得の場と位置付けている途上国にとって、これは先進国側の裏切りと見え、1.5℃目標を含む削減対策への国際協力体制に水を差すことになる。

世界共通の公共課題である温室効果ガスの濃度制御には、世界全体で協調した対策が必要なのだが、その中で最富裕国のアメリカが協調体制から離脱して「化石燃料を掘って掘って掘りまくれ!」と叫ぶのに、なんで発展途上にある自分たちが支援も受けずに化石燃料使用を減らさなければいけないのだ?という話になることは目に見えている。そうした不満を抱く国がドミノのように増えて、パリ協定・気候変動枠組条約体制そのものにひびが入ることも懸念されよう。