これはCOP交渉を長く見てきた筆者にしても驚きの結末だったのだが、よく考えるとその背景にあるのが「トランプが来るぞ!」という会場で語られなかった不都合な事実だったのだろう。

仮に今回のCOPで合意できず、来年以降に交渉が持ち越しになると、肝心の先進国の筆頭である米国が交渉の場からいなくなってしまい、少なくとも2029年までの4年間、支援資金交渉は機能しなくなってしまう。そうであれば多少金額で妥協してでも、支援に前向きなバイデン政権のうちにCOP合意を取り付けて決定文書にピン止めしてしまおうという意識が、途上国側に働いたとしても不思議ではない。

もちろん途上国側にとってこれは満足のいく結果ではなく、妥協の産物だったのだろう。事実、公式な交渉で妥結・合意したにもかかわらず、閉会時の各国のステートメントで、インドをはじめとする途上国サイドは、口を極めて「300億ドルでは全く不十分で、話にならない!」と、合意内容に不満と怒りの発言を繰り返している。

米国の条約離脱が示唆する国際枠組みの危機

さてそれはこれでCOPはひとまず安泰か、というと必ずしもそうではないようである。

筆者がCOP会場で意見交換した米国産業界の関係者によると、第二次トランプ政権がパリ協定から離脱することは既定路線だが、議会上院共和党内部では、米国が国連気候変動枠組み条約そのものから脱退することが検討されているという(パリ協定は同条約の下に合意された協定なので、条約から離脱すれば自動的にパリ協定からも離脱することになる)。

米国が義務を負うことになる国際条約は、議会上院の3分の2の多数で議決・批准する必要があり、気候変動枠組条約は共和党のブッシュ大統領(息子)時代の1992年に国連で採択された直後に、共和党議員を含む米国上院の圧倒的多数の賛成で批准されている※1)。

そうした手続きを経て参加した条約から、大統領権限だけで脱退できるかどうかについては法的な解釈が分かれているようだが、仮に米国が条約から離脱すると、現下の米国議会の勢力が拮抗する情勢では、将来民主党政権が返り咲いたとしても再び上院の3分の2の議決で再参加するのはほぼ不可能とみられている。