しかし今回は状況が異なる。パリ協定は既に発行から3年以上が経過していて、条文上いつでも離脱通告ができるため、仮にトランプ氏自身が言うように来年1月20日の大統領就任初日に離脱を通告すれば、再来年2026年1月20日には米国は正式にパリ協定から離脱することになる。中国についで世界第二の排出国である米国が抜けたパリ協定の国際枠組みとしての有効性が著しく損なわれることは明らかだ。
しかしCOPの会場内では不思議と米国の脱退を巡る議論や危機感は表立って聞かれなかった。事態が起きる前にあれこれ言っても始まらないということだったのかもしれないし、会場に集まる各国の気候政策交渉官や環境NGOは、考えたくないことは考えないと砂の中に頭を入れた駝鳥を決め込んでいたのかもしれない。
しかしながらトランプ政権復活の影響は、最終合意に大きく影響していたものと思われる。COP29の交渉では、2035年にむけた先進国による途上国支援資金のNCQG(新規合同数値目標)の規模が最大の争点だったのだが、現行の年間100億ドルの資金拠出目標ですら当初期限の2020年に2年遅れて2022年に13年かけてようやく達成しているのが実態である。先進諸国がコロナ対策やその後のインフレ対策による膨大な財政赤字を積み上げて財政ひっ迫に直面している中、巨額の途上国支援資金をさらに増額コミットすることが無理筋なのは客観的事実である。
一方の途上国側は、先進国、とりわけ英国を含む欧州が喧伝してきた、温暖化による大災害の頻発と1.5℃目標を達成しないと人類が存亡するとの終末論を逆手に取り、「その温暖化を起こしたのは化石燃料を使って豊かになった先進国に責任があり、罪のない被害者である途上国の削減・適応対策には最低毎年1300億ドル(200兆円!)の資金供与が必要だ」との主張を繰り広げ、両者の間に埋めがたい溝が存在していた。
これほど乖離あるポジションをとる両者の間で何らかの合意が成立することは考えにくく、案の定、会期末の11月22日になっても議論は紛糾し今年は決裂やむなしとの見方もあったようである。しかし最終的には会期を1日半延長して「2035年までに少なくとも年間300億ドル(46兆円)の支援」で合意し、採択された。