引退後すぐ、富山のジュニアユースのコーチから指導者キャリアをスタートさせ、2022シーズン途中解任された石﨑信弘監督の後を継ぐ形でトップチームの監督に就任する。当時、J3で8年目を過ごしていたが、2022シーズンは6位、2023シーズンは3位、そして今2024シーズンも3位でフィニッシュし、初開催のJ2昇格プレーオフの切符を手にした。

富山のターニングポイントは、2021年に社長として招聘した左伴繁雄氏の就任だ。同氏は45歳の若さで横浜F・マリノスの社長に就任してJ1連覇を達成すると、2008年に湘南ベルマーレから常務取締役のオファーを受け、これを機に日産自動車を退社し「サッカークラブのプロ経営者」の道を進む。2015年に湘南を退職したタイミングで、清水エスパルスから誘いを受け社長に就任。チームは初のJ2降格を経験するが、“昇格請負人”の小林伸二監督を招聘して1年でのJ1復帰に繋げた。

2020年1月に清水の社長を退任した後は、プロバスケットボールBリーグ「ベルテックス静岡」のスーパーバイザーを務めていたが、2021年カターレ富山に請われ再びJの舞台に戻ってきた左伴氏。日本サッカー界の名物社長である。赴任する先々で結果を残すだけではなく、指導者や選手、サポーターからも愛されるキャラクターで、特に監督を選ぶ目には定評がある。小田切監督も、その目にかなった1人だ。

8ゴールを記録した地元出身のFW碓井聖生、7ゴールのMF安光将作を中心に、10番を背負うブラジル人FWマテウス・レイリアが絡む攻撃陣と、ベテランDF脇本晃成と今瀬淳也が最終ラインを締め、中盤にはMF西谷和希と優希の双子が君臨している。他にも将来有望な若手も控えており、小田切監督もローテーションさせながら試合経験を積ませ、誰が先発でも遜色ないチームに変貌を遂げた。

11年ぶりのJ2へリーチをかけた富山だが、その裏にはチーム強化の才がある社長と、“ミスター・カターレ”ともいえる指揮官の存在があるのだ。


伊藤彰監督 写真:Getty Images

ツエーゲン金沢:伊藤彰監督