金融機関は預金者のお金を預かる。肝心なことは運用の安全確保だが、緊急をよいことにそれはなされなかった。借り手がどう使うか、その使い道が国民経済に貢献するのかどうかはあまり考慮されなかったようだ。

借り手が利子を払う。これが融資というビジネス行為の健全性を保証する。さらに、担保をとるのは預金者のためである。無利子、無担保というふたつの無は、金融マンのやり甲斐を奪いモラルの欠如を生み、やがて精神の無をもたらす。

当面はいいだろう。貸出が伸びるのだから金融機関の収入は増える。しかし創造性は失われていく。ゼロゼロ融資の光と陰は十分に検証されねばならない。

銀行力の温床

従業員規模別の取引金融機関数を示したのが図7である。

図7 従業員規模別の取引金融機関数 出典:「中小企業白書2007年版 全体概要」、 P.21

注目するのは1人~20人の小企業である。ここでは1行~2行が30%以上、3行までを含めると60%弱になる。

考慮しなければならないのは、この数の中に旧国民金融公庫が含まれていることだ。それを引き算すれば小企業のつき合う民間金融機関は1~2行だ。少額の預金をしているだけでもこの数字に含まれてしまうから、引き算はもう少し進んでいる。

メインバンクならぬマイバンクと小企業が1対1の相互信頼関係を築く。社長のところに時を措かずに訪れる金融機関の営業マン。おしゃべりの合間にときおりビジネスの話が混入する。

一昔前のドラマのシーンだ。銀行力の温床はこれだと思う。これがあるから、貨幣の前貸し(速度)と資本の前貸し(資本量)という両者の間にあるふたつの歯車が駆動する。

頼りにしていた金融機関から見捨てられたという不幸な経験を持つ企業もある。

興味深い表を示そう。これは植杉威一郎氏が作成したものである。

表1 態度を一変させた金融機関の実体(上段:回答件数、下段:構成比) 出典:『中小企業のライフサイクルと地域金融機関の役割』(社団法人 全国信用金庫協会編、近代セールス社、2010年)