この金額で見たら大いに利用されたことになる。この融資で、苦境を乗り切り存続に成功した企業はたくさんある。だから政策は見かけ上、成功なのだが、それだけではない。光と陰の部分があり、陰の部分はマイナスの質的効果としてこれから現実化するかもしれない。それは、無利子・無担保という金融界の常識にないことを政策的に持ち込んだことによる“ゆがみ”の発生である。
短期間で受付件数が100万件を超えたのは、ひとえに申請受付の要件が甘かったことによる。個人事業主については、過去4年間のどこかの一ヶ月と比べて、申請時点の一ヶ月の売り上げが5%以下なら可。小規模法人は15% だ。
コロナ禍では総じて中小企業の売り上げは不振だから、5%とか15%とかいうのは高くないハードルだったし、4年間のどこかの一ヶ月と比べて、というのも異例の甘さであった。しかも審査は企業の立地する各市町村である。
金融機関にしても、短期間に百万件を超える申請をよく吟味することは不可能であるから、甘い審査にならざるを得ない。
次のグラフは申し込み件数を示している。ピーク時には2週間で10万件を超えていた(図3)。
制度上は、この制度の以前に実施されていた融資を一度返済させて、この新制度の融資に切り替えることは不可だったが、そこにも抜け穴があった。借り手の意志で返済、その借り手がタイムラグをおいて新制度を利用するなら、妨げるものはなかった。
問題は一部の金融機関がこの裏技を利用した疑いがあることだ。それは金融機関と金融マンのモラルに反することだった。緊急対応の措置であったから抜け穴が生じるのは仕方なかったが、金融界がそれを利用したとしたら問題であろう。
制度の不備は他にも不都合を生み出した。融資期間は5年で延長可能であった。経営が不振、特に売り上げというトップラインが不振になるとそれを回復するには時間がかかるというビジネス常識が“5年”の背後にあった。しかし、無利子期間の3年が終了する前に返済が殺到した(図4)。