当然ながら、肺は食事のためではなく呼吸のために存在しています。
しかし人類の歴史において、肺は常に物質の投入口として機能してきました。
古くは大麻のカンナビノイドやタバコのニコチンといった薬物。
また19世紀半ばに普及した吸入麻酔も麻酔薬を肺に入れることで機能します。
現代においても、吸引式の薬は喘息の治療をはじめ多くの場面で使用されています。
このように肺がターゲットとされるのは、肺が非常に「大口」だからです。
たとえば消化管は600ダルトンを超える分子を通過させませんが、肺上皮は16万ダルトンもの分子を取り込むメカニズムを備えています。
つまり肺は消化管に比べて270倍もの大きさの分子を取り入れられるのです。
さらに大麻やタバコ、麻酔の例が示すように、肺からの吸入は即効性に優れています。
実際、過去に行われた研究でも、悪性貧血の治療にビタミンB12のエアロゾル化の有効性が実証されています。
この研究では、悪性貧血の患者24人が集められ、噴霧器によってビタミンB12が空中散布され、血中濃度の変化が調べられました。
すると驚くべきことに、ビタミンB12のエアロゾル化は口からの補給に比べて54倍も効果的であり、筋肉注射とほぼ同等の効果であることが示されました。
他にもビタミンB12欠乏症の子供や高齢者を対象にした実験でも、エアロゾル化することで血中のビタミンB12濃度を急速に改善させられることが示されています。
他の研究でも、トランスレチノイン酸(ビタミンAの代謝活性物)も数分から数時間かけて肺から吸収できることが報告されています。
これらの研究では、ビタミンは人工的な噴霧器で空気に散布されました。
しかしビタミンは自然環境でも非人為的に生成されることが知られています。
たとえば空気と水の境界線はビタミンが自然発生するポイントになっています。
そのため研究者たちは、ビタミンもまた気体栄養素と定義できると結論しています。