このような複雑な構造による表面積増加や特定の物質を積極的に取り込む仕組みは、消化器官で吸収を担う腸を連想させます。
(※海外ではコカインや覚せい剤(メタンフェタミン)の粉末を鼻から吸い込む方式もとられており、これは鼻が吸収口として優れている証でもあります)
実際、いくつかの研究は必須ミネラルとして知られるマンガンや亜鉛、ヨウ素が嗅上皮を介して脳に入ることができるとする強力な証拠が示されています。
たとえば溶接工など空気中の高濃度のマンガンに晒される人々を調べたケースでは、鼻から吸収されたマンガンが脳に運ばれ、神経毒を発するレベルまで蓄積を起こしていることが分かっています。
この結果は、鼻は空気中にあるマンガンをかなりの速度で取り込めることを示しています。
もう1つの重要な例はヨウ素を調べた例でみつかりました。
ヨウ素は甲状腺ホルモンを作るのに必須の元素ですが、地球上の多くの土地ではヨウ素が欠乏状態にあります。
やや古い報告ではありますが、WHOは1993年に世界人口の大部分がヨウ素欠乏症であるとの警告も行っています。
この悲惨な状況はヨウ素添加塩の世界的な普及により改善されましたが、現在でもヨウ素不足は続いています。
(※日本は海藻や魚を食べる習慣があるためヨウ素不足は発生しづらくなっています)
このヨウ素もマンガンのように呼吸によって補える栄養素であることが示されています。
過去に行われた研究では、要素の1日の推奨される摂取量は150μg/日とされていますが、呼吸だけで大気中から11㎍、つまり推奨量の7.3%のヨウ素を吸収している可能性が示されています。
また空気中の高濃度のヨウ素に晒されている洗濯作業員を調べたところ、血中と尿中のヨウ素濃度が他の職業よりも著しく高いことが示されました。